21世紀の桃太郎へ

中学3年の息子の高校受験が佳境に入ってきている。

今回の模試の中には満足な結果がでた教科があったようだ。

「でもさ、俺って
すごく波があるんだよね。」



「生きてるからリズムみたいなものは
あるのかもね。」


「だけど、俺波って好きなんだけど。波って良くない?
こう高い所見えると気持ちいいじゃん。
ただ、最悪の時に受験になったら本当に最悪だな」



「そうだねぇ。それにアップダウンありすぎると
疲れないかな。
波を全く無くすのは難しいだろうけど
波を小さくするとか、
波がこう段々高くなってくとか
そういう波にするべきなんじゃない」




「いや、それムズイって。普通じゃできないから
『努力』とか必要だし」



「受験生なわけだし、もうそろそろ
腹くくって『努力』するべき時期なんじゃない」


そうなのだ。
我が息子は『努力』を惜しむタイプなのである。

『勉強』が好きではないのだ。




「まあ、『勉強』って難しいよね。
自分の為だから勉強しなさいとか、言われたりすることない?」



「うん、でも俺それ違うと思ってるよ。
社会の為にするべきじゃん」



「でもさ、それでも難しいよ。
だって、今君が勉強サボっても
社会はすぐに困んないじゃない。
母さんたちはそうはいかんよ。
父さんや母さんがサボったりするどころか
気を抜いたりしただけで
きっともう日本に仕送りできないし
そうなると
お姉ちゃんは大学行けなくて
すぐ働かなきゃいけなくなるし
君は受験もできないしさ


母さんたちは
別にサボりたくて
『努力』し続けるのがすごく嫌だなって
訳じゃないんだ。
寧ろ何かをしてあげられる喜びの方が
強いんだよ。
楽しいけど苦しいおかげで
生きてる実感ありまくりだし。


でもやっぱり苦しいんだよ。
それは『努力』することを
やめられないからなんだ。
やめたら子供がとっても困ってしまうから
もう自分がどんなに苦しくても
あらゆる『努力』を毎日毎日やり続けなきゃいけない。


けれども
こうも言えるんだ。
母さんたちは君と違って
もう『やる』しか選択肢がないから
ある意味、苦しくても
とってもスッキリしているんだ。



ところが
君の場合は違う。



サボっても自分しか困らない。
そんな君が『努力』をし続けていくのは
本当に大変なことだ。
だから、君の『努力』の方が
母さんたちよりしんどいと思ったりするよ」




なんて会話を息子とした。


15歳は昔だと大人だ。
昔の大人である15歳は
『選択肢のない努力』をしなければならなかっただろう。


しかし今は豊かな社会となり
15歳はまだまだ働かない。
18歳でも働かない人が多い。


自分で立って歩けて
読み書きそろばんができて
体も大人に近くなっても
まだまだ『選択肢のない努力』をしなくてすむ。


それは本当に幸福なことだが
同時に生きづらい世の中にもなった。




夫の父が昔私にこう言った。

海軍兵学校の途中で終戦になり
地元に戻ってきた時
大学で勉強しようと思ったら
もう必死でやるしかなかったね。
周りの同年代の友達はみな
田んぼで毎日毎日働いていたから。
自分は何をするって
もう勉強するしかない
やるしかないと思った。


お父さんは肉体労働のきつさを
骨身にしみてわかっていたに違いない。
そのきつい肉体労働のをやるしかない、
『選択肢ない』友達の事を思うと
『選択肢のある』お父さんは
友達の為にも
一生懸命やろうと思ったんだと思う。



でも
今はどうだろうか。

息子の友達の中に
本当は勉強がしてみたくてしょうがないのに
田んぼで働かなきゃいけなかったり
草むしりをしなきゃいけなかったり
子守りをしなきゃいけなくて
悔しい思いをしている子が
一体いるのだろうか。


私の世代ですら
そういう子はいなかった。


労働の厳しさ
命を営んでいく(つまり食っていく)
難しさを現代の15歳の息子に
頭の中の理解でなく
身体感覚を伴って理解させるのは
非常に難しいと思う。




豊かな社会になるということは
生きづらい社会でもあるのだ。



でもそれでも
いつかは人生を一人で歩き始める君



桃太郎のきびだんごではないけれど


『頭の中』が身を助ける時があるはずだから
持って行け
と持たせてやりたい親心があるんだ。

譲るべき
金銀財宝も美田もない。


そんな君が人生を
徒手空拳で切り拓いていくには
あまりに頼りない。


その時には
『頭の中』と『仲間』があれば渡っていけるかもしれない。



今はサボっても君以外は誰も困らないだろうけど
それでも言わせておくれ


『勉強しろよ』って。


(兄ちゃんは母さんに
「勉強しなくていいから、問題とけって言っといて』と言ってたけどさ)




若者は
未来へと続く
人類の希望。



そして人類の特徴は頭脳。
これを使って
世界中の現代の桃太郎は
仲間と共に宝を探して
船をこぎ出していくんだ。



荷物はそんなにいらないから
肝っ玉と
頭の容量を大きくしとくにこしたこたあないって。