ケニアのアレックスくんに話を聞いて考えた日本人の向かうべき道

家に長男の友達でケニア人のマイクアレックスくんがやってきたのはとある小春日和の週末だった。。
彼はスマートな25歳で経営を学び、日本語を学び、そして今回は大学院進学の前に日立のインターンとして働くために来日したのだという。


ちょうど、その頃義父の具合が悪くなり、アメリカ在住の夫も大阪の実家に駆けつけるという事態となったので、万が一の時にはアレックスに我が家の老犬(オスの狆)の世話をしてもらって私たちは大阪に駆けつけようと言う話になった。そこで私はアレックスに犬の散歩につきあってもらって、散歩のコースやエサのやり方など教えることになった。


「犬の散歩した事ある?」
「いいえ、これが初めてです。」
「じゃ、犬飼ったことないの?」
「いいえ、今飼ってます」
「なんていう種類なの?」
「う〜ん、いろいろいるから」
「え、何匹飼ってるの?」
「多分、20匹くらいかな」
「!!」


なんと彼の家には約20匹の犬がいて、彼の廻りの家では、普通に50匹くらい飼っている家もあり、中には100匹以上という家もあるらしいのだ。それらの犬は番犬というより、ペットというより、「犬」というものらしいのだ。そして大きい犬は人気があり、売ってあげたりもするらしい。しかしブリーダーとも違うようなのである。


野良猫がたむろしている場所に出くわした。


「野良猫ってケニアにもいるの?」
「うん、沢山いる村もあるね。」


カラスが『かぁ〜』と鳴いた。


「カラスはいる?」
「いないなかなぁ〜。猿ならいるよ。」
「猿?迷い猿?」
「ううん、群れでいるんだ。朝窓あけると森を300匹くらいが移動するのが見える時もあるよ。」
「!!」

犬は20匹だし、猿は300匹。
ケタはずれの大きな景色が私の目の前に広がる。



翌日娘が宅配便のお歳暮時期のバイトを始めた話をしていると、


ケニアでは僕たちがするpart time jobってないな〜。」
「え?」
「あるなら、part time companyかな〜」
「どういうこと?」
「例えば、僕の弟は12歳なんだけど、小学校から帰ってくると5時くらいなんだけど、そこから2時間は馬場に行くんだ。そこで馬の売買や管理の仕事を2時間くらいして、7時に家に帰ってくる。そこから夕食を食べて、勉強して9時に寝るんだよ。」
「すごいね。」
「うん、僕の20歳の弟はやり手で、家の売買や、車のディーラーのような仕事もしてるし、レストランやバーも持ってる。大学生をしながらその仕事をして小遣いを稼ぐんだ。」
「!!」

ケニアと一般化してもの言ってはいけないと思うけれど、彼の一派が属しているキクユ族は金儲けが上手いというよりは、お金のためなら努力を惜しまない民族のようなのである。日本人がかつてエコノミックアニマルと欧米から揶揄されていたけれど、それよりも遥かにインパクトのある働き方をしているようなのである。


「僕の母親は大手クレジット会社の西アフリカ、南アフリカのディレクターで忙しくしているんだけど、帰宅してから自分たちが持っているサイドビジネスのチェックをしなければいけないんだけど、それが終わるのは大体深夜1時なんだ。」
「え?晩ご飯はどうするの?」
「う〜ん、大体どこの家も夜11時から2時くらいに夕食だよ。」
「それから寝るの?」
「うんそうかな、でも父はそれから映画みたりして大体朝がたの4時か5時に寝るね。」
「じゃあ、朝はゆっくりなの?」
「ううん、6時には起きてるよ。少ない睡眠時間でも大丈夫なんだよ。」
「あなたの家族だけじゃないの?」
「いいやそうでもないよ。従兄弟なんて、イギリスで昼はオフィスワーカー、夜は着替えて夜警の仕事しながら大学院に通ってて、しっかり眠れる日は週のうち2日だったよ。」
「!!」


彼らは睡眠時間が短くてもフラフラすることもなく仕事や勉強ができるらしい。それはキクユ族の特徴なのかもしれないし、ケニアの上層階級のライフスタイルなのかもしれないけれど、とにかく彼らは寝なくても平気らしいのだ。短命なのではないか、と聞いてみたけれど、彼の祖父母は90歳代でまだお元気だそうだ。彼の祖母は未だにスワヒリ語、英語そしてイタリア語に堪能だそうだ。お会いしたこともない彼の親戚がばりばりと楽しそうに仕事をしている姿が目に浮かぶ。



それにしても、本当につくづく世界は広いと思う。



彼がぽつり、ぽつり語ってくれるケニアの生活があまりにも日本とかけ離れていて本当に驚いた。ニューヨークやロンドンなど多少味付けは変わっても先進国の都市生活にあまり大きな隔たりはないように感じる。でもアレックスの話してくれるナイロビの都市生活はまったく東京にないものだ。


12歳の少年が毎日する馬場経営なんて、中学受験をしている東京の12歳にできるのかな?まあ、ケニアの12歳の少年に日本の中学受験はできないのと同じ事かもしれない。



部族間の闘争や、貧富の差の拡大。隣国との戦争。いろいろと問題はあるけれど、ケニアの国民(といってもキクユ族の話しか知らないけれど)にすごいエネルギー、バイタリティー を感じる。生きぬいていくぞという命の強さを感じる。



翻って日本人は競争心が足りない、アグレッシブではない、リーダーシップがない、いつも受け身とかいつも結構いろいろ言われている。しかし、それらをしっかり持っていそうな肉食系国民に今からなって、昔から肉食系っぽい彼らのような人たちとやり合って勝ち抜いて行くべきだ、とはアレックスの話を聞いて実は全く思わなくなってしまった。だってどう考えても日本人にとっては睡眠は大事だと思われるのだもの。


日本人の良さがあるとしたら、それはアグレッシブな面よりも「和を持って尊しとする」や「協調する」などのちょっと損な役回りだけど『いい人』ぽい所だと思う。


それを日本が世界へ繰り出す武器とするのは難しい。でも、「和」を広げて闘争なども全てを飲み込んで300匹の猿の群れ等の野生の動物といつまでも共存共栄できるような地球を作り上げようと頑張ってほしい。睡眠を取りながら毎日コツコツと真面目に努力する日本人がひとりでも多くいて欲しいと思う。