ねこのおじさん

冬になるとすっかり庭木が枯れて、坂道の向こうの大きな家から我が家が丸見えになる。そこにねこのおじさんが住んでいる。

クリスマスの朝、寒い中を犬の散歩に出かけた時、初めて「Hi,It's freezing cold, isn't it?」と急に声をかけてくれ、それ以来よく立ち話をするようになった。

おじさんの奥さんはわたしが越してきたころに具合が悪くなり、クリスマス前に亡くなったこと、おじさんには二人娘さんがいて、一人は近くに住んでいるけど、もう一人はフロリダに住んでいて、お医者さんをしていること、奥さんが亡くなる前に迷い猫を拾って飼いだしたことなどだんだんにわかってきた。

おじさんは、多分70歳代後半か80歳代で、昔はエンジニアだったらしく、家の周りの外灯や、ガレージのスイッチなどいろんなものをおじさんは作ったようだ。特に外灯はマヨネーズか何かのビンをホヤ(円筒形の電気やランプを囲ムもの)にしてあるんだけどよくできている。

おじさんに猫シッターを頼まれたことがある。わたしをすっかり信用し、カギを貸してくれた。一日一回、ディーディーという元迷い猫と少し遊んで、餌と水をあげ、トイレの始末をする。

家のマントルピースの上には、娘さんたちが10歳くらいの時の大きな肖像画が2枚かかっている。美しいブロンド巻き毛の娘さんとブルネットで美し瞳をした娘さんだ。その娘さんの間をディーディーが行き来する。おじさんの立派な科学の本が何冊も本棚に並んでいる。その立派な本の前でディーディーが伸びをする。おじさんが奥さんに宛てた手紙が額に入っている。大したことは書かれていないけど、きれいな絵が描いてある。きっと奥さんがうれしくて大事にして、額に入れたんだろう。その額の置いてある机の上にのり、窓の外を見るのがディーディーは好きだ。

おじさんの素晴らしかったであろう家庭が垣間見える。美しく利発な娘たち、やさしい奥さんがほほ笑むその傍らでロッキングチェアにおじさんはきっと座っていたに違いない。今はディーディーが丸くなっているけど。

おじさんはこの大きな家で思い出と猫と一緒にくらしている。

窓から坂下にわたしの家が見える。

あなたは今だれと一緒に暮らしているの?自分に聞いてみる。

一緒に暮らしているものや人を大切にしてね。
それはとても貴重なものなんだと自分に教えてあげたい。




冬が続く。庭木が茂るのはまだまだ先だ。今日も我が家からおじさんの家が見える。灯がともるとホッとする。おじさん、元気でね。ディーディー、おじさんを頼みます。そんなことを思ってカーテンを引く。

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