Dad, say sorry say It's all my fault.

親しくしている友達のお父さんの話。

彼女のお父さんはイタリア移民で
NYPD(ニューヨークポリスデパートメントの略)だった。
彼女のお母さんは17歳のとき
スウェーデンからやってきて、18歳でお父さんと出会って
19歳で結婚した。

2人は彼女を頭に4人の子供に恵まれた。


彼女はお母さん譲りのプラチナブロンドで青い目をしている。
子供二人は今年大学卒業をしてもう働きだした。
早期退職をしたご主人とゆったりと暮らしている。


彼女の下に弟が2人、妹が1人。


妹さんはこの近くに住んでいる。
弁護士のご主人と小学生の子供2人、
会社勤めをしながら今所帯盛りで忙しい時期だ。


一番下の弟さんはお父さんがNYPDを退職したあと、
警護員として再就職した先の
ラスベガスにうまくなじめずに
またどこか弱いところがあって
ドラッグ中毒になってしまった。


静脈にもう針が刺さらないくらいになった。
死線を何回もさまよったが
リハビリをして更正し、
今は両親の住むラスベガスで
両親の家のすぐそばに住み、
時には年老いた両親を助けながら
一人で暮らしている。



彼女のすぐ下弟さんは
お父さんの後を継ぐような形で
NYPDに勤めている。
ちょっと変わったところのある弟さんだったけれど
ルーマニアの女性と結婚したあたりから
両親との関係がぎくしゃくしだした。


このルーマニア女性がどうも強者で
お父さんが痔疾で苦しんでいるときに
木の枝をお尻にさすと治ると力説し
木の枝を渡してお父さんに強要、
お父さんは半分疑いつつ、半分信じて
木の枝をお尻につっこみ
大出血して気絶したそう(実話なところがすごいけど)
なんだけど、
お父さんにつっこみ方が悪かったと言ったらしい。


また子供の教育もすさまじく
ホームデポ(大型ホームセンター)の駐車場で
4歳の女の子にパンツをぬがせて
隣の車のタイヤにおしっこをかけさせたのを
お母さんが目撃し、注意したら
ルーマニアでは普通のことよ」(多分嘘)
と言ってのけたらしい。


そんなこんなにはじまって
NYPDの息子さんもだんだんと
彼女のペースにはまり
理由をつけて
両親に会いいくことを拒み
手紙や電話もなくなった。


お父さんとお母さんの金婚式に
招待状を送ってもなしのつぶて。



しかし、お父さんはお孫さんのお誕生日には
お祝いのお金を送り続けた。
でも一言もお礼も
うけとったの電話もなく
今まできたそうだ。



お父さんは9月に痛風結節切除の手術を
受けることになった。
89歳のお父さんは
手術を前にすこし弱気になり、
9月のレイバーデイホリデイ(休日)に
子供と孫全員に会いたくなった。



子供たち全員を招いたけれど
今回も弟さんからは返事がない。


悲しむお父さんに心を痛めた友人は
意を決してお父さんに電話をした。

そしてこう言った。

"Dad,
Listen.
Call David.
Say ' I am sorry. It is all my fault. Please forgive me.'

We sometimes need to say 'sorry' for nothing.
Dad, really for NOTHING!"

「お父さん、聞いて。デヴィッドに電話をかけて
『ごめんなさい。全部俺が悪かった。許してくれ』と言うのよ。
時々、何にも悪くないのに、謝る必要があることもあるのよ。
お父さん、ほんとうに何にも悪くないのによ。」


お父さんは警察官で頑固で正直な人だったから
「わしがどうしてそんなことをせなならん。いやじゃ」
と言った。



"Dad. Think about it. If you say that, you are going to lose what?
You will only lose your pride.
Think what you might get when you say that.
You might get the relation back again with your beloved son.
Sometimes,
we have to be brave to say'I am sorry.'for NOTHING.
We need to be brave enough to forgive ."


「お父さん、考えてみて。
謝って、失うものは何?
プライドを失うだけよ。
謝ったら何が手に入るか考えてみて、
ひょっとしたら
愛する息子とのよい関係を
もう一度手に入れるかもしれない。
時には、『ごめんね』という勇気を持たなきゃいけない。
許す勇気を持たなきゃいけない。」



そしてお父さんに弟さんに今すぐ電話をかけて、
謝ったら、すぐにもう一度今度は彼女に電話をするようにと言った。


そして電話を切った。


ところが一分もしないうちに電話がなった。


「電話番号が古くてかからん。」


彼女は弟さんの新しい電話番号を教えた。
祈るようにして、お父さんからの電話をまった。
しかし電話がかかってこない。
20分たった。


しびれを切らした彼女はお父さんに電話をした。
話し中。



しばらくして今度はお父さんから電話があった。

「わしゃ、あやまったよ。
全部わしが悪かったって言った。
心配せんでいい。全部はわしがわるかったんじゃ。
いままでつらい思いをさせて悪かったって言った。
すまなかった。
ゆるしてくれと言った。

そしたら、デイヴィッドが
「父さん、悪かったのは僕だ。
本当にごめんよ。」と言ったんだ。



そしてお互いに声が出なくなった。


デイヴィッドの泣き声が聞こえてきた。


わしも涙が止まらなくなった。
受話器を握りしめて
しばらくお互いに泣いていた。



デイヴィッドは今度のレイバーデイには
なるべく家族をつれてきたいけれど、
無理なら一人でわしに会いにきてくれると
言った。

本当にデイヴィッドがこれるかわからんが、
それでもわしは今日
息子と本当の会話ができてうれしかった。」







気がつけば彼女もお父さんからの電話で泣いていたそうだ。



アメリカ人はよく謝らないという。
アメリカ人はよく自己主張をするという。
アメリカ人はよく自分に正直でごまかしたりしないという。



警官をしながら苦労して子供を4人育てた移民のお父さん。
頑固でがんばってきたお父さん。
曲がったことが大嫌いなお父さん。
そのお父さんが思い切って
心をこめて言った『I am sorry』に
どんな思いが込められていたのだろう。



長い人生の中で
時には
自分に非がないと思っても
謝ってみる勇気が必要な時がある。


それで失う物と
それで得られる物を
考えてみよう。


妥協とか
口先ではない
『ごめんなさい』を
たとえ自分に非がなくても
言わねばならない時もある。

相手に通じないかもしれないけれど
そうして『ごめんなさい』と言いながら
相手を許さねばならない時があるのだ。